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【9月13日より開催】 ID vol.3 Tarini sethi 'a memory of the future' 未来の記憶:すべての生命の平等を謳うフューチャリズム.
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TAKERU IWAZAKI「FLOW ー 自由と個性ー」

TAKERU IWAZAKI「FLOW ー 自由と個性ー」

 



 Interview no.001

「絵の中に自分が入っている、他の存在を感じない静かな世界にいる」

TAKERU IWAZAKI(以降IWAZAKI)は、絵を描いている時の自分の状況をこう説明する。絵を描いている時に完全に没頭し、自己意識が低減し、時間の感覚を失い、作品と一体化する。これは心理学でいう「フロー状態」であり、禅でいう「無我」の状態にも似ており、内面の静寂や平和を感じられる瞬間だ。

「FLOW」これはIWAZAKIのメインのテーマである。これには二つの意味があり、一つは水や雲の変幻自在な形や表情の「流れ」、そしてもう一つがこのフロー状態だ。彼はそれが楽しく、その状態になるために絵を描いていると言っても過言ではないという。


IWAZAKIは住宅設計士の両親のもとで生まれ育った。幼少期には父親のドラフターで遊んだり、チラシの裏に迷路を描いたりもした。また、駿府城のお堀の前に中学があり、神社でもよく遊んだという。日常的に「日本文化」を感じていたようだ。

「中学はバスケにハマり、高校時代は何にも希望を持てず、まるでNO FUTUREな時代でした。まわりの友人がDJやスケボー、ダンスにハマる姿を見ていて、自分もそういう没頭できるものを求めていました」

そして、IWAZAKIが20歳の頃、ストリートアートのPhil frostやFutura2000、DELTA などにも影響されて本格的に絵を描くようになった。

「フロー状態になる楽しさ以外で、絵を描くことに夢中になれたのは、ルールがなく、想像を自由に広げられて、目に見えないものを可視化できることです」


ルーツ1: 静岡

IWAZAKIの故郷である静岡市は、人口約70万人を抱える都市だ。この地は、日本の象徴である富士山の麓に広がり、山々に囲まれた自然豊かなエリアとして知られている。南部は駿河湾に面し、新鮮な海鮮料理で有名だ。

また、歴史的には、戦国時代を終え、江戸時代の幕開けとなる徳川家康の幼少期の地としても知られ、日本茶の名産地としてもその名を馳せている。

IWAZAKIは20代前半にデザインの専門学校に通うために、東京に拠点を移したが、3−4年で、生まれ育った静岡市に戻ることを決めた。東京の多くの誘惑によって制作に集中できなかったのが理由だった。

結果的に生まれ育った街だからこそ、互いに応援し合える人間関係があり、彼が制作で使用しているオリジナルの変形木製パネルも、このような地元の仲間のサポートがあってこそ生まれたものだ。


ルーツ2: アブストラクト・ヒップホップ 

「実験を重ねて独自のサウンドを追求する姿勢や、ラップ(言語)に縛られず、聴く人が自由に風景などをイメージできるスタイルに影響を受けました」

彼が最も影響を受けたアブストラクト・ヒップホップは、1990年代初頭に登場した伝統的なヒップホップを超えて、ジャズやエレクトロニカなどの影響を受け、非伝統的なビート構造を用いることで知られている。

また特定の文化や社会的文脈から自由なため、幅広いリスナーに受け入れられた。彼の作品の印象に共存する和洋の要素は、欧米のストリートカルチャーや音楽に影響を受けたからだろう。

彼が聴いてきたのは日本のDJ KRUSHや米国はカルフォルニアのDJ Shadow。他にも英国のThe Cinematic Orchestra 、Matthew Herbert、Squarepusher などエレクトロニカやテクノなど。

ここにあがっている名前のアーティストやグループはどれも実験的であり、イノベーティブであり、いくつかのジャンルを自由に融合させ、新たなカテゴリーを築いた人たちだ。IWAZAKIがそのような姿勢と音楽に影響を受けたのはとても理解がしやすい。

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FREEFORM  自由であること

日本は自然の美しさと厳しさが共存する国であり、しばしば自然災害に見舞われる。この環境が私たちに自然の力への深い畏敬の念を植え付け、自然と共生する文化とアイデンティティの形成に寄与している。TAKERU IWAZAKI にとっても、「自然」は重要なインスピレーションの源だ。

「水や雲の変幻自在なところや、形や表情に惹かれます。そして、同じ種類の植物でも、貝殻などでも、個体によって変形していたり、何一つ完全に同じ形がないという、個性にも惹かれますね」

IWAZAKIのEXTRACTシリーズでは、同じ総柄のドローイングのシルクスクリーンの版を使用しながらも、形が異なるパネルにプリントすることで、各々が独自の存在となる。一方で、同じ版で作られていることから、一つの連なりとしてのアイデンティティを形成している。

このシリーズではオリジナリティとは何かという根本的な問題と、芸術作品がどのように個性と一体感を内存することが可能かというテーマを私たちに投げかける。

「見る人それぞれが自由に感じて欲しいです。言葉で説明することで、解釈の選択肢を奪いたくありません。私自身、自由でいたいので、他人の自由を制限することもしたくないです」

彼が変形木製パネルを使用しているのも、絵のタイトルを記号のようにしているのも、さらに曲線と直線で構成される「何か」ではない形状を採用しているのも、他人にルールを作られるのではなく、自由な状態で楽しんで欲しいからだ。

西洋の『自由』は個人主義、権利保障、表現の自由を中心に展開されている。一方で、日本の『自由』は集団内の調和や社会的な役割を果たすことに重きを置かれている。日本社会では、集団の調和を乱さずに自由を享受することが求められ、この観点が軋轢を防ぐが、それによる息苦しさや生きにくさを感じる人もいる。

IWAZAKIは、このような社会状況の中で、アート作品を創る時や観る時くらいは、個々人が自由に楽しめる環境を提供したいと考えている。


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IWAZAKIはアートを通じて個々の自由を尊重し、それぞれが自己の方法で楽しめる空間を提供することで、見る人それぞれに無限の解釈の自由を与えている。彼の作品から、私たちは自由と個性について再考し、それぞれの生き方や表現方法に対する新たな視点を得ることができるだろう。

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