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witness 「日常生活にある美を愛する芸術家 」

witness 「日常生活にある美を愛する芸術家 」

Interview no.003

私たちは“ここではないどこか”に喜びや美しさを求めがちだ。しかし、実は足元に目を向ければ、そこには美しく愛しい風景が広がっている。例えば、家族や友人との時間、日々の中で感じる小さな喜び、四季折々の風景。これらはすべて「今、ここ」にしか存在しない特別なもの。witnessの作品は、そんな日常にある見落としがちな美しさを思い出させてくれる。

witnessは、花のモチーフとマスキングを使用した技法、そして衝動的なストロークが印象的な芸術家。2020年にサッポロビールのキービジュアル制作を担当し、翌年放映されたCMにも出演。さらに、2023年にはスターバックスの国内限定コーヒーバッグのデザインを手掛けるなど、これまで企業のアートワークやテキスタイルデザインを数多く手掛けてきた。そして、2024年には文化庁主催のMUSIC LOVES ARTのキービジュアルという大役を担当し、その記念として初のインタビューが実現。 

 

ルーツ 1: 感性の原点

「子供のころは父親からの影響でアニメ、マンガ、特撮、ゲーム、プラモデルといったものにずっとハマっていて、チラシの裏に落書きしたりノートにマンガを連載して自分一人で楽しんでいました。内容はほぼドラゴンボールなんですが(笑)ガンダムやドラゴンボール、ウルトラマン、仮面ライダーは今でも大好きです。

ゲームソフトのパッケージにはポップなイラストが多かったのですが、天野喜孝さんが描かれたファイナルファンタジーシリーズには、これまで見てきたものとは違う繊細なタッチや色の使われ方に衝撃を受けました」

 

ルーツ 2: 福岡の多様な文化とアジアとの交流

witnessが生まれ育った福岡県福岡市は、九州地方の経済と文化の中心地であり、豊かな歴史と現代的な魅力が融合する都市。古代から重要な交易拠点として栄え、現在ではITやスタートアップの拠点としても注目される、多様な文化が息づく街。

「福岡は九州各地から人が集まることもあって、アーティストがとても多い地域です。ギャラリーもここ数年で増え、注目が集まっています。また、福岡はアジアとの玄関口とも呼ばれていて、韓国の釜山とは飛行機で50分の距離なので、よく遊びに行きます。現地の友達とお互い行き来し、美味しいものを紹介しあったり、文化の違いを知ることがとても楽しいです」


花のモチーフについて

「活動初期は線や模様などの抽象画を描いていたのですが、モチーフを取り入れる練習として花を描き始めました。草花がフレッシュなエネルギーを伴いながら成長し、時の流れとともに枯れていく中で、色やかたちが変わっていく美しさ。それは人間の年齢や老いていく姿にも重なって見えます」

 

絵を描くうえで大事にしていること

「偶然性も大事にしています。例えば、刷毛のストロークやマスキングテープの位置などです。10代の頃、ロックやパンクロックが好きでよく聴いていたので、上手く表現できなくても最初に感じたことはとても大切にしています。なので描き損じや一筆目のラインを好んで残すことが多いです」



  

 

ズレについて

「子供の頃、祖父が大工をしていたので、住宅の建設途中の現場によくついて行き、外壁が取り付けられる前の柱や梁だけの姿を色々な角度から見るのが好きでした。その木材が交差しているラインの残像がずっと頭のなかにあります。その記憶を元にマスキングテープを柱に見立てるような感覚で画面を再構築し、面白いバランスを模索する実験的な作品を作っています。

また、矛盾や周りとの認識の違いは人と人、国と国の間にありますが、その違いやズレをそのまま楽しむことや、新しい視点でものごとを見る機会でもあると思います。このシリーズで描かれている線にはそういった可能性を込めています」

 

インスピレーションを受けているアーティストについて

「篠田桃紅さん、田中一村さん、アンリ・マティスです。篠田桃紅さんは書道を経て、柳が揺れるような文字でありながら、そうでないものを書くという強い実験的精神を感じる抽象的な世界に到達されていることを尊敬します。

田中一村さんは、その画力はもちろんなのですが、熱帯の風景を描いているのに自分の境遇を重ね、寂しげともとれるような画面に圧倒されます。

マティスは構図、タッチ、色使い全て楽しさや自由さを感じます。晩年に体が不自由になっても長い棒にクレパスを付けて壁画を描いたり、切り絵でも描画と全く見劣りしない自由なラインで作品を制作していることに、素晴らしさを感じます」

 

 

日常生活にある美について

「常生活の風景にある奇跡的なバランス、偶然性。例えば、軒先にある花々や植木鉢と棚、電信柱などそこに存在しているモノのコンビネーション。そのような日常にある偶然性に私は美を感じます。美しいものはいつだって近くにあります」




interviewer: Masato Takahashi(Geek/Art)


 

witness(ウィットネス)

福岡県出身。草花をモチーフにしたものや一度描いたモチーフを分解、再構築し新たな視点やバランスを模索する実験的なもののほか、作品を転写した布など横断的に制作を行う。2020年、サッポロビールのリブランディング ビジュアルを制作し、箱根駅伝の同社CMへ出演。2023年、STARBUCKSのコーヒーバッグへのアートワークを担当。そのほかMONTBLANC、PARCO、STARFLYERなど企業のビジュアル制作やコラボレーションを行なうほか、アパレルブランドのグラフィックデザインやテキスタイルデザイン、音楽関連のアートワークも多数手がける。

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