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  • witness 「日常生活にある美を愛する芸術家 」

    witness 「日常生活にある美を愛する芸術家 」

    2024.08.15

    Interview no.003私たちは“ここではないどこか”に喜びや美しさを求めがちだ。しかし、実は足元に目を向ければ、そこには美しく愛しい風景が広がっている。例えば、家族や友人との時間、日々の中で感じる小さな喜び、四季折々の風景。これらはすべて「今、ここ」にしか存在しない特別なもの。witnessの作品は、そんな日常にある見落としがちな美しさを思い出させてくれる。witnessは、花のモチーフとマスキングを使用した技法、そして衝動的なストロークが印象的な芸術家。2020年にサッポロビールのキービジュアル制作を担当し、翌年放映されたCMにも出演。さらに、2023年にはスターバックスの国内限定コーヒーバッグのデザインを手掛けるなど、これまで企業のアートワークやテキスタイルデザインを数多く手掛けてきた。そして、2024年には文化庁主催のMUSIC LOVES ARTのキービジュアルという大役を担当し、その記念として初のインタビューが実現。    ルーツ 1: 感性の原点 「子供のころは父親からの影響でアニメ、マンガ、特撮、ゲーム、プラモデルといったものにずっとハマっていて、チラシの裏に落書きしたりノートにマンガを連載して自分一人で楽しんでいました。内容はほぼドラゴンボールなんですが(笑)ガンダムやドラゴンボール、ウルトラマン、仮面ライダーは今でも大好きです。 ゲームソフトのパッケージにはポップなイラストが多かったのですが、天野喜孝さんが描かれたファイナルファンタジーシリーズには、これまで見てきたものとは違う繊細なタッチや色の使われ方に衝撃を受けました」   ルーツ 2: 福岡の多様な文化とアジアとの交流 witnessが生まれ育った福岡県福岡市は、九州地方の経済と文化の中心地であり、豊かな歴史と現代的な魅力が融合する都市。古代から重要な交易拠点として栄え、現在ではITやスタートアップの拠点としても注目される、多様な文化が息づく街。 「福岡は九州各地から人が集まることもあって、アーティストがとても多い地域です。ギャラリーもここ数年で増え、注目が集まっています。また、福岡はアジアとの玄関口とも呼ばれていて、韓国の釜山とは飛行機で50分の距離なので、よく遊びに行きます。現地の友達とお互い行き来し、美味しいものを紹介しあったり、文化の違いを知ることがとても楽しいです」 花のモチーフについて 「活動初期は線や模様などの抽象画を描いていたのですが、モチーフを取り入れる練習として花を描き始めました。草花がフレッシュなエネルギーを伴いながら成長し、時の流れとともに枯れていく中で、色やかたちが変わっていく美しさ。それは人間の年齢や老いていく姿にも重なって見えます」   絵を描くうえで大事にしていること 「偶然性も大事にしています。例えば、刷毛のストロークやマスキングテープの位置などです。10代の頃、ロックやパンクロックが好きでよく聴いていたので、上手く表現できなくても最初に感じたことはとても大切にしています。なので描き損じや一筆目のラインを好んで残すことが多いです」      ズレについて 「子供の頃、祖父が大工をしていたので、住宅の建設途中の現場によくついて行き、外壁が取り付けられる前の柱や梁だけの姿を色々な角度から見るのが好きでした。その木材が交差しているラインの残像がずっと頭のなかにあります。その記憶を元にマスキングテープを柱に見立てるような感覚で画面を再構築し、面白いバランスを模索する実験的な作品を作っています。 また、矛盾や周りとの認識の違いは人と人、国と国の間にありますが、その違いやズレをそのまま楽しむことや、新しい視点でものごとを見る機会でもあると思います。このシリーズで描かれている線にはそういった可能性を込めています」   インスピレーションを受けているアーティストについて 「篠田桃紅さん、田中一村さん、アンリ・マティスです。篠田桃紅さんは書道を経て、柳が揺れるような文字でありながら、そうでないものを書くという強い実験的精神を感じる抽象的な世界に到達されていることを尊敬します。 田中一村さんは、その画力はもちろんなのですが、熱帯の風景を描いているのに自分の境遇を重ね、寂しげともとれるような画面に圧倒されます。 マティスは構図、タッチ、色使い全て楽しさや自由さを感じます。晩年に体が不自由になっても長い棒にクレパスを付けて壁画を描いたり、切り絵でも描画と全く見劣りしない自由なラインで作品を制作していることに、素晴らしさを感じます」     日常生活にある美について 「常生活の風景にある奇跡的なバランス、偶然性。例えば、軒先にある花々や植木鉢と棚、電信柱などそこに存在しているモノのコンビネーション。そのような日常にある偶然性に私は美を感じます。美しいものはいつだって近くにあります」interviewer: Masato Takahashi(Geek/Art)   witness(ウィットネス) 福岡県出身。草花をモチーフにしたものや一度描いたモチーフを分解、再構築し新たな視点やバランスを模索する実験的なもののほか、作品を転写した布など横断的に制作を行う。2020年、サッポロビールのリブランディング ビジュアルを制作し、箱根駅伝の同社CMへ出演。2023年、STARBUCKSのコーヒーバッグへのアートワークを担当。そのほかMONTBLANC、PARCO、STARFLYERなど企業のビジュアル制作やコラボレーションを行なうほか、アパレルブランドのグラフィックデザインやテキスタイルデザイン、音楽関連のアートワークも多数手がける。

  • TAKERU IWAZAKI「FLOW ー 自由と個性ー」

    TAKERU IWAZAKI「FLOW ー 自由と個性ー」

    2024.05.23

       Interview no.001「絵の中に自分が入っている、他の存在を感じない静かな世界にいる」 TAKERU IWAZAKI(以降IWAZAKI)は、絵を描いている時の自分の状況をこう説明する。絵を描いている時に完全に没頭し、自己意識が低減し、時間の感覚を失い、作品と一体化する。これは心理学でいう「フロー状態」であり、禅でいう「無我」の状態にも似ており、内面の静寂や平和を感じられる瞬間だ。 「FLOW」これはIWAZAKIのメインのテーマである。これには二つの意味があり、一つは水や雲の変幻自在な形や表情の「流れ」、そしてもう一つがこのフロー状態だ。彼はそれが楽しく、その状態になるために絵を描いていると言っても過言ではないという。 IWAZAKIは住宅設計士の両親のもとで生まれ育った。幼少期には父親のドラフターで遊んだり、チラシの裏に迷路を描いたりもした。また、駿府城のお堀の前に中学があり、神社でもよく遊んだという。日常的に「日本文化」を感じていたようだ。 「中学はバスケにハマり、高校時代は何にも希望を持てず、まるでNO FUTUREな時代でした。まわりの友人がDJやスケボー、ダンスにハマる姿を見ていて、自分もそういう没頭できるものを求めていました」 そして、IWAZAKIが20歳の頃、ストリートアートのPhil frostやFutura2000、DELTA などにも影響されて本格的に絵を描くようになった。 「フロー状態になる楽しさ以外で、絵を描くことに夢中になれたのは、ルールがなく、想像を自由に広げられて、目に見えないものを可視化できることです」 ルーツ1: 静岡 IWAZAKIの故郷である静岡市は、人口約70万人を抱える都市だ。この地は、日本の象徴である富士山の麓に広がり、山々に囲まれた自然豊かなエリアとして知られている。南部は駿河湾に面し、新鮮な海鮮料理で有名だ。また、歴史的には、戦国時代を終え、江戸時代の幕開けとなる徳川家康の幼少期の地としても知られ、日本茶の名産地としてもその名を馳せている。 IWAZAKIは20代前半にデザインの専門学校に通うために、東京に拠点を移したが、3−4年で、生まれ育った静岡市に戻ることを決めた。東京の多くの誘惑によって制作に集中できなかったのが理由だった。結果的に生まれ育った街だからこそ、互いに応援し合える人間関係があり、彼が制作で使用しているオリジナルの変形木製パネルも、このような地元の仲間のサポートがあってこそ生まれたものだ。 ルーツ2: アブストラクト・ヒップホップ  「実験を重ねて独自のサウンドを追求する姿勢や、ラップ(言語)に縛られず、聴く人が自由に風景などをイメージできるスタイルに影響を受けました」 彼が最も影響を受けたアブストラクト・ヒップホップは、1990年代初頭に登場した伝統的なヒップホップを超えて、ジャズやエレクトロニカなどの影響を受け、非伝統的なビート構造を用いることで知られている。また特定の文化や社会的文脈から自由なため、幅広いリスナーに受け入れられた。彼の作品の印象に共存する和洋の要素は、欧米のストリートカルチャーや音楽に影響を受けたからだろう。 彼が聴いてきたのは日本のDJ KRUSHや米国はカルフォルニアのDJ Shadow。他にも英国のThe Cinematic Orchestra 、Matthew Herbert、Squarepusher などエレクトロニカやテクノなど。ここにあがっている名前のアーティストやグループはどれも実験的であり、イノベーティブであり、いくつかのジャンルを自由に融合させ、新たなカテゴリーを築いた人たちだ。IWAZAKIがそのような姿勢と音楽に影響を受けたのはとても理解がしやすい。 EXTRACT_3 2023FREEFORM  自由であること 日本は自然の美しさと厳しさが共存する国であり、しばしば自然災害に見舞われる。この環境が私たちに自然の力への深い畏敬の念を植え付け、自然と共生する文化とアイデンティティの形成に寄与している。TAKERU IWAZAKI にとっても、「自然」は重要なインスピレーションの源だ。 「水や雲の変幻自在なところや、形や表情に惹かれます。そして、同じ種類の植物でも、貝殻などでも、個体によって変形していたり、何一つ完全に同じ形がないという、個性にも惹かれますね」 IWAZAKIのEXTRACTシリーズでは、同じ総柄のドローイングのシルクスクリーンの版を使用しながらも、形が異なるパネルにプリントすることで、各々が独自の存在となる。一方で、同じ版で作られていることから、一つの連なりとしてのアイデンティティを形成している。このシリーズではオリジナリティとは何かという根本的な問題と、芸術作品がどのように個性と一体感を内存することが可能かというテーマを私たちに投げかける。 「見る人それぞれが自由に感じて欲しいです。言葉で説明することで、解釈の選択肢を奪いたくありません。私自身、自由でいたいので、他人の自由を制限することもしたくないです」 彼が変形木製パネルを使用しているのも、絵のタイトルを記号のようにしているのも、さらに曲線と直線で構成される「何か」ではない形状を採用しているのも、他人にルールを作られるのではなく、自由な状態で楽しんで欲しいからだ。 西洋の『自由』は個人主義、権利保障、表現の自由を中心に展開されている。一方で、日本の『自由』は集団内の調和や社会的な役割を果たすことに重きを置かれている。日本社会では、集団の調和を乱さずに自由を享受することが求められ、この観点が軋轢を防ぐが、それによる息苦しさや生きにくさを感じる人もいる。IWAZAKIは、このような社会状況の中で、アート作品を創る時や観る時くらいは、個々人が自由に楽しめる環境を提供したいと考えている。ORGM_7...